少女「じーー」
その少女はそう言いながら、じーっと私を見ていた。
少女「じーーーー」

彼女は、吾輩が高校に進学して以来、いつも同じバスに乗っている女子高生である。
毎日チラと目を合わせるのが、日課となっている。
以前から気になっているものの、恥ずかしくて話しかけたこともない。
そんな彼女が、いつになく、吾輩に視線を向けていることに気づきながら、恥ずかしさのあまり、目を合わせることができなかった。
少女「じーーーーー」
吾輩は、耐えられなくなり、漸く少女の方を振り向いたのである。

少女「ふふふふふ」
少女「やっと気づいてくれたね」
吾輩は、緊張のあまり、まともに返答できなかった。
吾輩「ほ…本日はお日柄もよくぅ…ぅぅ…..」
よくわからないことを言ってしまう。
少女「ふふふ」
少女は目を輝かせて吾輩を見つめる。
それがとても眩しいのである。

吾輩は人外以外とのコミュニケイションが苦手なのである。
吾輩は少女になぜ見つめるのか問いかける。
吾輩「お主は、何故吾輩を見るか?」
緊張のあまり、謎の口調になってしまった。
少女「名前…なんていうの?」
吾輩「吾輩といいますが」
少女「じゃあ、吾輩君って呼ぶね!」

会話の主導権は、いうまでもなく彼女が握っている。
少女「今日、バスに乗った時から、ずっと気になってたんだけど…」
少女「吾輩君、ズボン履いてないね!」
吾輩は赤面した。
今朝は、すさまじい強風であったため、恐らく、バス停にたどり着くまでに吹き飛んだのだろう。吾輩はそう推察した。
彼女は座席を立ち上がり、彼女の髪を束ねていた赤いリボンを外した。

リボンをほどき終わると、彼女はそのリボンを吾輩の下半身に巻き付けていった。
吾輩は為すすべもなく、リボンを潤滑に巻くことができるように、バスの中で、垂直方向を軸として回転運動をせざるを得なかった。
少女「くるくるくるくる」
少女「はい、できたよ!」
吾輩の下半身は、彼女のリボンで覆われ、赤いボトムウエアに変身していた。
吾輩「と…とても……ありがとう」
そう言うと、彼女は感謝されたことが嬉しかったため、優しく微笑んでいた。
吾輩「でも…ディボンが……」
少女「リボンは予備があるからいいんだ!」
彼女は、予備のリボンを頭に装着していた。

吾輩「彼女はとても優しく、女神の様だ」
少女「吾輩くん、私は女神だよ!」
これはいけない。吾輩は誤って心に思ったことが口に出ていたようだ。
授業中にトイレに行きたくなった時も、思いが口に出てしまうこと等日常茶飯事であり、直したい癖であった。
吾輩「しかし、今回はそれが良い方向に働いたのである」
吾輩は、再び思ったことを口にしていた。
少女「吾輩君、どうしたの?」
幸い、彼女にはよく聞こえていなかったようだ。

彼女の瞳は、深紅の色をしており、とても美しい。
しばらくの間、吾輩は無意識に、彼女の瞳に吸い込まれていた。
そうしているうちに、バスが高校前のバス停に停車した。
少女「あ、学校についちゃった!」
少女「一緒降りよ!」
吾輩は、少女に手を引かれ、慌ててバスを降りる。
吾輩は、そのまま一緒に校門を抜け、靴箱に差し掛かったところで、漸く、理性が正常に働き始めた。
それと同時に、吾輩は教師に囲まれ連行された。
少女「あ!!」
少女の顔は引きつっていた。

少女は今になって重要な事実に気づいたのである。
遠ざかっていく彼女は、吾輩に向かって叫んだ。

少女「吾輩君! ホントにごめん!」
少女「私ったら、何も考えてなかったわ!」
少女「お詫びは明日のバスで!」

ここは私立純真乙女学園。言うまでもなく男子禁制だ。
女神は天然らしい。
