ある日のこと
娘「ねぇねぇ、お母さん」
娘「お空ってどうして青いの?」

この少女は、私の娘。
先日、娘は3歳の誕生日を迎えた。
娘はその誕生日を迎えた瞬間、なぜなぜ期に突入した様だ。
精密な時計のように、3歳になった途端ぴったりと、なぜなぜ期に突入し戸惑ったが、そうなったものは受け入れるしかない。
私「太陽光はいろんな種類の光が混ざりあってできているの。いろんな種類の光は、空気中のチリやホコリに当たってバラバラに散らばるのだけどね、その中でも散らばりやすい光が一番私たちの目に届きやすいの。青は最も散らばりやすいから空が青く見えるんだよ」
娘「そうだったんだ! ママ博士号だね!」

博士号なんて言葉どこで覚えたのかしら?
3歳にしては、娘の使う言葉は少し独特である。
こんな風にして、なぜなぜ期に入って以来、娘は私に質問攻めなのである。
1日約8時間、週に40時間、私は娘のなぜなぜ攻撃に耐え忍ばなければならない。
何故か、土日は質問してこないことがわかっている。娘のなぜなぜ攻撃は、労働基準法第32条に則って行動しているようだ。
このまま質問が続くと、いずれ私の頭の中の情報量不足により、娘の質問に対して、十分に答えられない日が来るだろう。質問の兵糧攻めである。

娘は再び話始める。
娘「その光の散らばりやすさっていうのは、散乱という現象のことかな? 私、絵本で見た気がする!」
私「そうよ、よく知っているわね。散乱と言われているわ」
質問に答えて安心するのも束の間、娘はさらに踏み込んだ質問をする。
娘「散乱しやすい光と、しにくい光は何が違うのかな?」
私「光は元を辿れば、波できているのよ。その波が大きいか小さいかによって散乱のしやすさが決まるのよ」

娘「そうなんだ」
娘の反応は鈍いようだ。
(頼む、これ以上踏み込んだ質問をしないでおくれ)と私は心の中で念じた。
娘はしばらくぶつぶつと何かを呟く。
娘「じゃあつまり、電子と電場が……」ブツブツ
娘「…固有振動と……屈折率に影響…?」ブツブツ
娘′「EUREKA!」

娘は、納得したようだ。
所々漏れてくる言葉は、3歳児のそれではない。私が教えたこともない単語も知っていることが多い。
娘は、私が1の知識を提供すると、娘は100にして理解する。凄まじく物事の結びつけが早いのである。
ここままでは、娘が3歳1カ月になるころには、お手上げだ。
また別の日のこと
私は、娘と庭で草いじりをしていた。

唐突に娘が質問してきたのである。
娘「ママはどうして生きているの?」
私はドキッとした。
なぜなら、私には明確な質問に対する回答を持ち合わせていないためだ。
私はしばらく考えたが、頭の中にあることをそのまま話すことにした。
私「ママは、これをするために生きている、という明確な回答はないわ」
私「だけどね、ママは今こうして貴方の著しい成長を毎日見ることができていて嬉しいわ」

娘「つまり?」
娘は回答を促す。
私「ママはね、生きている理由はないと思うの」
私「理由はないのだけどね、目の前で起きていることに対して、喜びや楽しみを感じること、これはもっともっと感じたいと思うの。私にとって喜びや楽しみとは、貴方の成長もその一つだし、ソシャゲでほしいキャラが当たった時もそうなの」
娘「ソシャゲ?」
私「だから、その感情のパワーに触れるために、強く生きたいと思っているわ」
私「貴方にはまだ難しいかもしれないけど、その答えは貴方自身で、ゆっくりと探していくのがいいと思うわ」
娘「わかったよ、ママ!」

私は、これからも彼女の質問に対し答えていくだろう。
答えのない質問も多くされるだろうが、私にできるただ一つのことは、真っすぐに彼女の質問に答えることである。
いずれ、彼女が壁に突き当たった時や悩みがある時に、私の回答がヒントとなり、力強く進んでいくことができるように、私は全力で娘に答えるのである。

娘「ママ! 量子力学の観測問題について教えて!」
なぜなぜ期はまだまだ続く。